Slackのシングルチャンネルゲストが引き起こす弊害
こんにちは。フロントエンドエンジニアの根岸です。
この記事では、チャットコミュニケーションツールとして有名なSlackの機能(権限)である、
「シングルチャンネルゲスト」の是非について、個人的な見解を記載したいと思います。
タイトルからも分かる通り、限定的な条件以外においては、筆者はシングルチャンネルゲストは利用すべきではない、と考えています。
その根拠を、以下に記載します。
(なお、この記事は以前社内の日報に書いた内容を、一部編集、転記したものです。)
目次
- 前提
- シングルチャンネルゲストを利用するべきでない理由
- 詳細と背景
- シングルチャンネルゲスト権限開放への課題
前提
いかなる状況やメンバーにおいても、シングルチャンネルゲストを利用しない方がよいかというと、そうではありません。
自身の組織の特性や状況において、シングルチャンネルゲストを利用しても問題ない場合というのももちろん存在します。
まずその前提から整理していきたいと思います。
問題ない場合
- メンバー数が8人以下の場合
→SlackにおけるDMの最大利用人数が8人のためです。この人数以下のチームでは、シングルチャンネルゲスト権限だとしても、構造上は全員とコミュニケーションが取れるため、特に問題では無いでしょう。 - コミュニケーションの透明性を重視していない場合
- 業務委託の方とは事務連絡のみをする等、コミュニケーションのラインを増やす意味が無い場合
シングルチャンネルゲストを通常権限にするには、約1000円/月 の費用が発生します。
以上のような場合については、特にメンバー権限を通常権限にする必要は無いでしょう。
逆に、上記のどれにもあてはまらないという前提であれば、シングルチャンネルゲストを通常権限にする
理由が発生します。
以下から、なぜシングルチャンネルゲストを利用すべきでないか? の理由を記載していきます。
シングルチャンネルゲストを利用すべきでない理由
主に、以下3点が理由として挙げられると感じます。
- より民主的でコミュニケーションが活発なチームにしたいと考えるなら、情報の非対称性(Aさんは知っているがBさんは知らない、といった状況)を減らす必要があるため
- シングルチャンネルゲストは構造上、情報の非対称性が低くない状態であり、認識齟齬が起きやすい。それによるコミュニケーションコストの増加により、チームの生産性低下を招く要因となる
- チームの心理的安全性を高めていく仕組みを作りにくい
以下に、より詳細な説明、背景を記載します。
詳細と背景
前項の「シングルチャンネルゲストを利用すべきでない理由」を分類すると、
「情報の非対称性」「心理的安全性」といった2つの側面に分けることができます。
以下で、それぞれの詳細について考察していきたいと思います。
情報の非対称性について
DMのグループチャットを使用することである程度カバーできるとはいえ、シングルチャンネルゲストの構造の問題点として考えられるのは「情報の非対称性」が生まれやすい、という点です。
DMのグループチャットの招待上限人数は8人です。9人以上が関わるような会話をする場合、その会話は必然的にチャンネル上で行われます。
そこで行われた会話は、誰かがシングルチャンネルゲストに共有するという行為を挟まなければ、伝わることはありません。
この状態は「Aさんは知っているがBさんは知らない」という情報の非対称性を生みます。
これにより、認識齟齬による手戻りコスト、コミュニケーションコストが高まる危険性があります。そして情報を持つものと持たざるものの不平等さは、単純なコストや生産性の問題だけでなく、チーム内の精神的分断をもたらす危険性も孕んでいます。
「自分たちはその点はしっかり気をつけている」というように、一人一人の努力によって保たれている部分もあるかもしれません。そのため「構造の問題点」として挙げました。
ただこの状態では、いくら個々が意識していても、民主的なチームとして機能するのに、1つの障害が存在し続けてしまう状況であることには変わりありません。
心理的安全性について
全員が通常のメンバー権限になることのメリットとして、チームまた全体の「心理的安全性」を高めやすくなる、という点です。
心理的安全性とはいわゆる「アットホームな雰囲気」を指すのではなく「この人達なら自分を受け入れてくれる」という安心感のようなものです。
心理的安全性は、Googleが2012年〜2015年の3年間にわたり、社内の様々なチームを合計で180程選出し、研究した結果、生産性が高いチームであるために最も重要なものである、と結論づけたものです。
詳しくはこちら↓
(https://rework.withgoogle.com/jp/guides/understanding-team-effectiveness/steps/help-teams-determine-their-needs/)
この「心理的安全性」を高めるために重要なのが、相手の考えていることを知ることであったり、気軽なコミュニケーション、またそれぞれの自己開示の意識です。
ではなぜ全員の権限を同じものにする(=どのチャンネルにも入ることができる)ことで、心理的安全性が高まるのか。
もちろん上の情報の非対称性の話と関連し、不平等性がなくなることにより相互信頼が高まるという効果もあります。
加えて、1つの具体的施策として実行可能になるのが、いわゆる「分報チャンネル」です。
分報チャンネルとは、個人が自由につぶやける、Twitterのような個人チャンネルです。Googleで検索すればいくらでも活用事例が出てくるでしょう。
この仕組みにより、コミュニケーションが活発になりやすい状況が生まれます。
(導入すれば、勝手にコミュニケーションが活発になるわけではもちろんありませんが)
実際の自身の利用法としては、「人の時間割いてまで聞くほどじゃないけど、これみんなどう思ってるのか気になること」「今自分が詰まっていること」「その他色々」などをポンポンとつぶやいたりします。ちょくちょく返信やスタンプでのコミュニケーションが生まれたりしますね。
また、他の人のつぶやきを見ることももちろんできます。「この人こんなこと考えているんだ」「今この人こんな作業してるんだな」等もなんとなく分かったりするので、次のコミュニケーションも生まれやすいといった効果もあります。
これによって、普段は知りにくい、仕事中に相手が何を考えているかなども知りやすくなりますし、相手を知り、また自身を知ってもらうことにより、心理的安全性が高まりやすくなると感じます。
シングルチャンネルゲスト権限開放への課題
全員の権限統一には、もちろん良い面だけではなく、以下のような課題があります。
- 情報過多で、業務上重要なメッセージが埋もれる可能性がある
- メンバー権限にすることによるコスト増
それぞれ、自身の考える解決策を記載します。
情報過多について
日々の業務で必要なやりとりが多く、埋めたくないようなコミュニケーションが飛び交うチャンネルについては、Slackのチャンネルのスター機能を利用し、常にチャンネルの上部に表示されるようにすれば、ある程度カバーできるでしょう。
これをしておけば、自分の特に注目したいチャンネルを探す手間も省けます。
また、自身の経験的に、30人程度の会社でこのような仕組みがあったのですが、特に情報量の多さは気にならなかったです。(スター機能も使っていませんでした)
30人全員にtimesチャンネルがあり、業務チャンネルもかなり多かったですが、情報の多さよりも、どんな情報にもアクセスできることによる公平感のほうが勝っていました。
コストについて
現在のSlackプランで、メンバー権限にするために必要な月当たりコストは、960円/人です。
なので論点としては、権限統一による生産性向上に、シングルチャンネルゲストの人数×1000円程度の価値があるかどうかです。
実際のケースとして、以下に例を挙げたいと思います。
30人中、7人がシングルチャンネルゲストであったとします。
その場合、全員の権限の統一には、月あたり約7000円のコストがかかります。
個人的な意見にはなりますが、これは7000円を払うよりも、遥かに価値があると思います。
7000円は、30人で割ると約240円です。時給2000円の人で考えると、10分に達しない程度です。
一人あたり、月に10分の手戻りを削減できるのであれば、時間効果的に導入する価値がある、ということになりますし、これは削減できる可能性が高いのではないでしょうか。
コミュニケーションコストは、期待しているよりもはるかに高くなりやすい(人数が増えるほど顕著)ですし、実際に認識齟齬が問題になり、時間を大幅にロスすることも多いです。
その時間は、もっと価値のあることに費やすべきでしょう。
以上です。
上はあくまで一個人の意見ですが、同じような悩みを抱えている方の意見の補助の助けになれば幸いです。